1990年代初頭の南アフリカ共和国は、まさに爆発寸前の火薬庫だった。黒人グループ間の血で血を洗う対立や、白人右翼勢力によるテロ行為が頻発し、一歩間違えれば全面的な内戦へ突入しかねない極限状態に置かれていた。
破局を防いだのは、当時の白人政権大統領フレデリック・デクラークとの凄惨な政治交渉である。二人の関係は穏やかな友情などでは断じてなかった。互いに強い不信感を抱き、交渉の席で罵倒し合うことも日常茶飯事だったという。だが、国家の破滅を回避するという目的のために、双方が身を削るような譲歩を選んだ。この妥協の連鎖こそがアパルトヘイトの完全な終焉をもたらし、民主的な新生国家を打ち立てる原動力となった。