日本国内で広大な影響力を保持してきた主要団体の代紋には、それぞれ独自のルーツと歴史的ドラマが刻まれている。そのデザインは組織の成り立ちや指導者の意図を色濃く反映している。
兵庫県神戸市を本拠とする六代目山口組の代紋は、菱形の中に「山」の文字を立体的に配した「山菱(やまびし)」としてあまりにも有名だ。港湾労働者の口入れ屋から出発し、三代目組長・田岡一雄の時代に全国規模の組織へと急成長を遂げた同組において、この山菱は絶対的な統率力のアイコンとなった。角張った力強い直線構造は、揺るぎない結束と厳格な階層社会を端的に表現している。
東日本を中心に強固な基盤を築く住吉会は、丸枠の中に細やかな伝統文様を組み合わせた重厚なデザインを用いる。東京の繁華街や花街を勢力圏としてきた歴史から、江戸歌舞伎や粋(いき)の美意識に通ずる雅やかな直線美が同居しており、伝統的な縄張り組織としてのプライドがデザインの隅々にまで生きている。
また、神奈川県横浜市や熱海を足場に発展した稲川会の代紋は、黄金色に輝く稲穂(いなほ)をモチーフとした円形意匠が特徴的だ。創始者の名前にあやかりつつ、実り豊かな稲穂が垂れる姿は「実るほど頭を垂れる」という侠客としての道徳観や、博徒としての伝統的アイデンティティを誇示する意味合いを秘めている。