吹雪が荒れ狂う冬の山道。冷気が肌を刺す中、足跡一つない銀世界を無言で進む集団がいた。東北の伝統的な狩猟集団、マタギである。彼らの傍らには、常に虎毛の狩猟犬が寄り添っていた。
マタギにとって、犬は単なるペットでも家畜でもない。「山神からの授かりもの」であり、命を預け合う唯一無二の相棒だった。山中で熊と遭遇した際、マタギの放つ一本の槍や一発の銃弾が命中するまでの数十秒間、熊の注意を引きつけ、その鋭い爪や牙から狩人を守り抜くのが虎毛犬の役割であった。
極限状態の雪山で培われたマタギと犬との絆は、他者には決して明かされない極秘の口伝として受け継がれてきた。山中での特殊な指示体系、犬の血統を守るための厳格な交配ルール。それら全てが、過酷な山岳地帯で生き残るための生きている知恵だったのだ。その鋭敏な嗅覚と並外れた忍耐力は、今なお人々に語り継がれている。