この地に伝わる伝承のなかでも異彩を放つのが、平家の落ち人たちが残した「生活の掟」だ。鯉のぼりを揚げない、鶏を飼わない、傷ついた鳥を庇う——追っ手に居場所を察知されないための徹底した隠蔽工作が、独自の食文化や習慣を生み出した。
現在、敷地内や周辺の食事処で提供される「平家狩人料理」は、まさにその歴史の産物と言える。味噌を塗って囲炉裏の炭火でじっくり焼いた「ばんだい餅」や、山鳥や鹿肉の串焼き。派手な装飾を排し、山野の恵みを極限まで活かした素朴な滋味は、ファストフードや均一化した都市の食に慣れた旅人の胃袋と心に強く響く。