二人の結婚生活で最も世間を驚かせたのは、あの「前代未聞の契約書」だった。月に数回までの夜遊びの許容、離婚時の財産分与の細かな規定など、当時のワイドショーはこぞって「冷徹な契約」「愛のない関係」と書き立てた。
しかし、個人が自立したエージェントとして生きる現代において、あの契約書は極めて合理的かつ先進的な試みだったと言えないか。お互いのクリエイティビティとプライベートを侵食しないための、一種のパートナーシップ協定。昭和的な「内助の功」や「家」の概念を真っ向から否定したあのシステムは、現在の事実婚や多様な家族のあり方を先取りしていた。彼らはただ、自分たちの関係性を既存の「結婚」という型にはめたくなかっただけなのだ。