菊地凛子という才能が世界に与えたショックを、今なお鮮明に記憶している人も多いはずだ。2006年の映画『バベル』で見せた、言葉を持たない聴覚障害の少女役。一切のセリフに頼らず、全身から発せられる感情の爆発だけでアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた功績は、日本映画界の歴史を根底から塗り替えた。
一発屋で終わる国際派俳優が多い中、彼女は異例の快進撃を続けていく。ギレルモ・デル・トロ監督の大作『パシフィック・リム』でのヒロイン抜擢、さらには世界中の優れた映画人だけが名を連ねる米映画芸術科学アカデミーの会員選出。ハリウッドの巨大な資本システムに飲み込まれることなく、常にインディペンデントな毒と気品を保ち続けるスタイルは唯一無二だ。オーディション文化が色濃いアメリカで、彼女は己の肉体と感性だけを武器に自らの居場所を勝ち取ってきた。