「もし現代において、途中でどうしても歩けなくなったり、病気で倒れたりした場合はどうなるのか」という点については、多くの誤解が存在します。現代社会において、失敗した行者が実際にその場で切腹させられるような事態はもちろん存在しません。
1. 幾重にも張り巡らされた「事前の適性審査」
いきなり千日の本行に入ることは不可能です。まず「百日回峰行」を無事務め上げられるか、さらに比叡山延暦寺では12年間にわたり山に籠もる「十二年前籠山行(じゅうにねんぜんろうざんぎょう)」や厳しい規律に耐えうるかなど、精神・肉体両面での適性が何年もかけて徹底的に見極められます。完行できる見込みのない者は、事前に本行への出立が許可されません。
2. 現代における中断・リタイアの現実
万が一、本行中に複雑骨折や重篤な内臓疾患など不可抗力のアクシデントで継続不能になった場合、現代の寺院組織および法治国家のルールに基づき、即座にドクターストップと医療搬送が行われます。
その際、行者は行を断念(リタイア)することになりますが、寺院から追放されたり命を奪われたりすることはありません。ただし、大阿闍梨への道は閉ざされ、一僧侶として別の役職や日々の勤行に専念する形となります。自害の掟は「他人に強制される処罰」ではなく「行者自身が御仏に誓う内面的な究極の規律」であるためです。