本作を語る上で避けて通れないのが、アングル、アングル『グランド・オダリスク』、ドノアール、レンブラント、ゴヤといった西洋名画を人間によって生きた絵画として再現する「タブロー・ヴィヴァン(生きた絵画)」の試みだ。スタジオには巨大なセットが組まれ、膨大な数の照明機材が持ち込まれた。だが、監督が求めたのは単なる名画の模倣ではなかった。
光の質感そのものをフィルムに焼き付けること。その過酷なこだわりは、現場に壮絶な緊張感をもたらした。完璧な光が差し込む一瞬を待ち続ける過酷なスケジュールと、撮影スタッフとの対立。カメラの前で生き物のように呼吸する光と陰影を捉えるため、映画表現の限界に挑む熾烈な戦いが繰り広げられたのだ。画中の人物が静かに息づき、布地が微かに揺れるとき、絵画と映画の境界線は完璧に消失する。パッション(1982年映画)が提示したその映像美は、まさに映画史に刻まれた光の奇跡と言える。