1978年10月にリリースされた牧村三枝子版『みちづれ』は、発売直後から爆発的な売れ行きを見せたわけではありませんでした。地方のスナックや有線放送への地道なプロモーション活動を通じて徐々に火がつき、翌1979年にかけてオリコン週間チャート上位を独占、累計売上150万枚を超えるミリオンセラーへと成長していきました。この驚異的なロングヒットの根底には、時代背景と緻密な音楽的構造が存在します。
水木かおる氏による歌詞は、「水の流れに 花びらを そっと浮かべて 泣いたひと」という情景描写から始まります。浮世の厳しさに翻弄されながらも、愛する人と苦楽を共にしようとする女性の決意が描かれており、高度経済成長の狂騒が落ち着き、オイルショック後の生活不安を抱えていた当時の日本人の心に深く染み渡りました。昭和の演歌にありがちな「情念や恨み」ではなく、「互いにいたわり合い、歩調を合わせて生きていく」という温かな絆の提示が、男女を問わず圧倒的な共感を呼んだのです。
さらに遠藤実氏による旋律は、日本人の耳に馴染み深いヨナ抜き音階(五音音階)を基調としつつ、音域が極端に広すぎず誰でも口ずさみやすい親しみやすさを備えていました。折しも1970年代後半は、全国の飲食店に「8トラックテープ式カラオケ」が急速に普及した過渡期にあたります。「聴く音楽」から「自ら歌う音楽」へと娯楽の主軸が移り変わるなか、お酒の席でデュエットや合唱がしやすい『みちづれ』は、まさにカラオケ文化のキラーコンテンツとして定着していったのです。