東洋の文字の宝庫として君臨するのが、諸橋轍次らによって編纂された『大漢和辞典』である。5万字を超す膨大な文字を網羅するこの巨大辞書を開くと、64画の「䨻(ほう・びょう=雷の音)」や「𪚥(てつ・てち=言葉が多いさま)」といった、竜や雷が群がる異様な文字が静かに息づいている。
古代文字と日本人の精神構造を深く探求した漢字学の巨星・白川静博士は、文字の成り立ちに古代人の呪術的思考や世界観が色濃く反映されていることを指摘した。神への祈り、自然現象への畏怖、言霊への信仰。画数を複雑に重ねること自体が、文字に宿る神秘的な力を高めるための儀式的な役割を果たしていた可能性がある。